沢木耕太郎が、朝日新聞で2015年4月1日より、連載をはじめました。
沢木耕太郎は、多くのバックパッカーを生み出した名作「深夜特急」シリーズを書いた作家。
私も10年くらい前、旅行でマカオ・香港に行く機内で読みました。
これを読んだ直後にマカオに降り立つとヘンなテンションになってしまうこと間違いありません。
沢木耕太郎の作品では他に、「杯(カップ)緑の海へ」サッカーワールドカップを取材した作品が好き。
「なんて映画だっけ?」を引き起こすロードムービー的小説
沢木耕太郎の作品は旅がテーマ。
全部を読んだわけではありませんが、ほとんどの場合、それは一人旅です。
一人旅の友は孤独であり、虚無感を抱えて旅をする。
旅先で、温かい人達との心のふれあいがあるわけではなく。(全くないわけではないが)
主人公は一人旅につきものの不安を抱えながら、景色を眺め、酒を飲み、食事をとる。
粛々と続く、誰かの旅の記録を淡々と追体験していくのが沢木作品の楽しみ方だ。
連載が始まり、しばらく経った時だった。
小説「春に散る」を思い返していたわけでもなく、まったく無防備な瞬間、不意に脳内イメージに「土埃舞う南米の田舎町の風景」が浮かび上がった。
あぁこれは、なんの映画のワンシーンだったかな?
あまりに鮮明なイメージの出現に私は既視感を覚えていた。
反芻するように何度も思い返すと、やはり数日前に始まったばかりの連載「春に散る」以外に思い当たるシーンがない。
毎日わずか一段の文章が、これほど胸に食い入ってくるものかと、新鮮な驚きが楽しいのだ。
「花に散る」は高倉健を主人公にイメージした作品
連載が始まる前の朝日新聞特集ページに掲載されていた。
小説「花に散る」は、高倉健を主人公にした映画の構想がもとになっている。
沢木耕太郎は、生前の高倉健と親交があったという。
高倉を主人公に考えた映画のアイデアがいくつかあって、何度か高倉本人に見せたそうだが「自分には演じられない」と言って、作品としては実現しなかったそうだ。
連載が始まる前に、この記事を読んでいました。
読み進めるときに、高倉健のイメージが先行しないかと心配しましたが杞憂でした。
まだ、沢木耕太郎氏には「高倉ボックス」という高倉健を主人公に構想された映画のシナリオが何本かストックされているという。
未発表の構想がいくつもあることは、ファンにとって嬉しいかぎりだ。
旅は続く
一人旅はとくに、旅にでる前のドキドキする高揚感がたまらない。
しかし、旅先での自分は圧倒的に孤独で、すぐに家に帰りたくなってしまう。
結局、目的地を足早に通り過ぎるだけで、いつも早々に帰路についてしまいます。
それでもしばらくすると、また旅に出たくなる。
家にいるのが好きなのに、いったいなんでこういう気持ちになるのだろう。
沢木耕太郎の作品は自分で旅をしなくても、マカオでカジノに興じたり、南米の酒場でボクシングの中継に見入る楽しみを与えてくれる。
「春に散る」の旅は始まったばかり、旅はまだまだ続きます。