良い文章とは、本文を読ませるツカミが大事だと思うのです。そういう意味で2014年12月2日朝日新聞「天声人語」は秀逸です。
「その客ってだれ?」疑問符がこびりつく書き出し
その客は、いつもとても専門的な書籍について問い合わせをしてきた。
なかなかすぐには答えることができない。電話で注文を受けても、在庫がないものばかりだったりする。
客とは菅原文太さんである。
朝日新聞「天声人語」より2014年12月2日
その客ってだれ?とモヤモヤして思わず読み進めてしまったのは私だけでしょうか。
新聞のコラムも毎日読んでいると、全文を一語一句、読む気にさせる書き出しというのは少ないことがわかります。今日の書き出しは「なぜ読み進めてしまうのか」冒頭部分を反芻するように何度も読み返してしまいました。
文章のきっかけ(書き出し)として、読者の疑問を引き出すことは、読み進めるためのスパイスです。
「その客は、いつも専門的な・・・」
「その客」のように「それは」「これは」といった代名詞(違っていたらスミマセン)は、代名詞が指す人が誰であるかを先に説明します。その固有名詞のくり返し使用を避ける意味で使われるのがスタンダード。つまり、いきなり「その客」で始まる文章はおかしいことになります。
普通に書くとすると下のような文章になるはずです。
その人は、とても専門的な書籍を問い合わせするので困っていた。たいていは店に在庫のない本ばかりである。
普通の文法を用いて書くと凡庸に陥ってしまうことがみてとれる、好例だと思います。文章の順序を変えて書くだけで命が吹き込まれたような印象に変わります。
また、書き出しの「その客は、」から「菅原文太さんである」までの句読点と言葉のリズムが絶妙です。黙読でもいいかもしれませんが、できれば音読で読んでみるとそのリズムの軽妙さを実感することができるでしょう。
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まとめとして
私も少し気を配ろうと思いました。
菅原文太さんの本屋さんでのエピソードは、下の書籍に収録されています。